【環境省ホームページより】
斉藤鉄夫環境相は20日、環境をテーマにした経済活性化策「緑の経済と社会の変革」を正式発表しました。
冒頭、今回の発表の基本的な考え方として、今日の世界的な不況の影響による経済・雇用の厳しい状況の中、新たな需要を創出する必要性があります。またその一方、地球温暖化という地球規模の環境問題にも直面しており、克服のための早急かつ思い切った対策が求められております。今回の『緑の経済と社会の変革』は、こうした状況を踏まえ、必要とされる環境対策を実行することにより、直面する環境問題に対処するとともに、現下の経済危機を乗り越え、将来の日本経済の強化につなげていきたいと語りました。
また、日本には世界に誇る環境技術と「もったいない」の精神、そして豊な自然と共生する文化をはぐくんできた歴史があり、こうした日本特有の強みを大いに活かした環境対策が経済再生・向上への起爆剤となるよう、これまでにない強力な政策展開を図っていく必要があると述べました。さらに、先に述べた環境対策によって経済対策を実現するための施策を早急に実行すると同時に、長期的な観点からこれらの施策は低炭素社会実現のため不可欠なものであることを強調。
思い切った一歩を踏み出し、広く国民参加に結びつく流れを構築する、地球の命運をかけたこの一歩こそが低炭素革命であり、将来の世代から感謝され、世界各国に誇れる日本経済を実現するために、環境と経済がともに発展・向上する社会作りに向けて全力で低炭素革命に取り組んでいきたいと語りました。
環境省の試算によると、環境ビジネス市場規模を2006年の70兆円から2020年に120兆円へ、雇用規模は140万人から280万人にそれぞれ拡大する効果があるとされています。
今回発表された「緑の経済と社会の変革」は第1章から6章までの構成(概略は下記の通り)となっており、そのうち2009年度補正予算に採用された学校への太陽光パネル設置や省エネ家電、エコカーの普及促進などが盛り込まれています。
以下、「緑の経済と社会の変革」の中のはじめに記載されております斉藤環境相の原稿を掲載します。
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はじめに
サブプライムローン問題に端を発する世界同時金融危機の影響も受け、世界は同時不況に突入しています。この世界的な不況の影響を受けて、我が国の経済・雇用の情勢は、歴史的な厳しい状況にあります。
こうした中で経済の底割れを防ぎ、雇用を確保するためには、新たな需要を創出する
必要があります。
他方、我々は、地球規模の環境問題に直面しており、早急かつ思い切った対策が求められています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「地球温暖化は疑う余地がない」と断定し
ているように、地球温暖化問題については待ったなしの状況にあります。世界全体の温室効果ガスの排出量を今後10〜20 年の間にピークアウトさせ、2050 年までに少なくとも半減させる方向で対策を早急にとらなければ、地球規模の気候変動により、大規模な自然災害が頻発するなど、莫大な損害を被るおそれがあります。
また、世界の人口が大幅に増加することや途上国の経済発展、社会の変化等により、
資源枯渇や価格高騰、自然破壊や種の絶滅など生態系の危機が生じることが懸念されています。
「緑の経済と社会の変革」は、こうした状況を踏まえ、必要とされる環境対策を思い切
って実行することにより、直面する環境問題に対処するとともに、現下の経済危機を克
服し、我が国の将来の経済社会を強化しようとするものです。
このためには、政策目的を明確にして、その目的を実現する上で必要な新たな取組を大胆かつ集中的に打ち出す必要があります。こうした取組が、越えがたいと見られてきた環境技術や省エネ技術導入に向けての壁を乗り越えるための起爆剤となり、新しい技術やサービスへの新規参入や地域の市民の取組が続々と生まれ、大きなうねりとなって広がり、経済と社会の変革へと結びつくことになると考えます。
そして、その流れを、私たちの身の回りの都市・地域のあり方を含む社会資本、自動
車や家電及び住宅などの消費、生産設備や産業構造などに広げていきます。こうした思い切った政策により、我が国の経済と社会のあり方全体を環境問題に対応できる新しいものに変革し、我が国の経済と社会をより持続力がある構造に変えていきたいと考えています。
<環境が経済を牽引して未来を開拓>
1.環境対策によって日本の力を活かし、経済発展を実現
本年末には、COP15(国際気候変動枠組条約第15 回締約国会議)が開催され、地
球温暖化対策の次期枠組みが決められます。現在交渉中ではありますが、京都議定書以上の対策が必要になることは共通認識になりつつあると言えます。
こうしたことから、今後、環境分野はきわめて大きな需要が見込まれる成長分野とな
ると考えられます。環境分野を制する国が21 世紀をリードするといって過言ではないかもしれません。世界各国は、そのことも見越しつつ、現在の経済危機の中で温暖化対策などの環境対策を行うことを経済再生への起爆剤とするとともに、将来の環境産業における主導権争いを始めています。そのような中で、我が国としても、これまでの延長線上だけで政策を展開しているわけにはいきません。
まさに、待ったなしの状況にあります。
幸い、日本には世界に誇るべき省エネ・環境技術があります。また、物や資源を大切
にする「もったいない」という考え方や豊かな自然と共生する文化をはぐくんできた歴
史もあります。
こうした強みは先人たちの努力や毎日の生活の積み重ねにより得られたものですが、
我が国が環境問題に対処していく上で、大いに強みになるものと考えられます。この強
みを活かして環境と経済をともに向上・発展させていくためには、環境技術の普及や環
境関連の事業への参入、さらには地域の環境保全の取組を妨げる、価格や制度、情報といったハードルを越える必要があり、そのために強力な政策展開を図っていきます。
2.政策意思の明示と強い初期インセンティブの導入
我が国で、世界でも群を抜く低公害・低燃費の自動車技術が発展し、自動車産業の発展につながったのは、自動車に係る環境対策を世界最高レベルのものとする揺るぎない政策意図を持ち、排ガス規制とともに税制等のインセンティブを用いてきた成果であることは、誰しも認めるところでしょう。現在、さらなる低燃費車の普及加速に向けた税制改正などが行われており、その成果が期待されます。
このように強い政策意思が示され、思い切った初期インセンティブが導入されること
が、環境技術の普及などへのハードルを越える上できわめて大きな効果を発揮すると考えられます。
最初の対策の成果が出てきて、環境対策としての効果に加え、事業者にとっての製品需要や事業の発展、消費者にとっての便益につながることがわかると、多くの民間の事業者が参入し、また、消費者の側もそれを広く受け入れ、そのような技術などに関わる主体の輪が広がっていきます。すなわち、最初の成功は小さなものであったとしても、その成功が輪に加わるものを呼び込むことによって大きな成功に結びつきます。
この輪の広がりは、さらなる技術の発展と投資の拡大を導き、それがまた国内だけでなく海外も含めた需要の拡大に結びつきます。これが繰り返されることによって、環境と経済がともに向上・発展していく好循環が生まれます。
3.低炭素革命の実現に向けて
現在直面している経済問題と環境問題は、ともに緊急の対応を求められており、環境対策によって経済政策を実現するための施策を速やかに実行しなければなりません。
しかし、それと同時に、そのための施策は、低炭素社会を実現し、未来に渡ってわれ
われ人類の活動基盤を守る、きわめて長期的な課題のためにも不可欠なものです。したがって、こうした環境対策は、現在の経済危機解決の側面だけでなく、将来に向けての長期的観点からも、非常に効果的なものと考えられます。
そして、強い政策意図を持って思い切った初期インセンティブを起爆剤にすることに
よって、先に述べたように、環境と経済の好循環が始まります。これが軌道に乗れば、
さらなる研究開発や投資が大きな流れとなり、そのことに励まされてこれまで環境問題
への関心が必ずしも行動に結びついていなかった国民の行動につながり、さらにはこれまで関心の薄かった多くの国民の参加に結びつきます。
これまで動いていなかった車輪を動かすには大きな力が必要です。特に、その最初の一回転はどんな場合にも大変重くて容易には動きません。しかし、地球の命運をかけた大きな車輪ですら、最初の一転がりを転がすことによっていわば弾み車のように勢いがつきます。勢いがつけば、手助けもしやすくなり、また、その勢いのある動きに参加しようとして手をさしのべる人が続々と現れて継続的で力強い動きになり、低炭素社会が実現します。いわば、その最初の一回転こそが低炭素革命であり、私たちはそれができるかどうかの岐路に立っています。
今こそ、将来の世代から感謝され、また、世界各国に誇れる日本の経済社会を実現す
るために、環境と経済がともに向上・発展する社会づくりにむけて全力で低炭素革命に
取り組む必要があると思います。
このような考え方で「緑の経済と社会の変革」を取りまとめたところです。
私たちが、緑の経済と社会の変革に向けて、力強く歩めるよう、国民の皆様の一層の御理解と御協力をお願いするとともに、こうした我が国の取組は広く海外にも発信していきたいと考えています。
なお、策定に当たっては、800 件を超える多くの国民の皆様からのご意見をいただく
とともに、各界の有識者の皆さんと直接意見交換を行いました。その中で、「広く環境を捉え、長期的視野に立つべき」、「今の厳しい経済状況の中では需要の創出が重要な課題であり、将来に向けて必要な環境対策を進めるべき」などのご意見を頂くとともに、「国がわかりやすい政策を思い切って進めるとともに、地方の取組を支援して欲しい」、「地域や民間の取組が進む仕組みを作って欲しい」などのお話を頂きました。また、具体的なアイデアも多く頂きました。
こうしたご意見やアイデアを踏まえ、また、関係各省の施策も含めて、私の考え方を
「緑の経済と社会の変革」として取りまとめたところです。
この場をお借りして、関係するすべての皆様に御礼申し上げます。
平成21 年4 月20 日
環境大臣 斉藤鉄夫