民主、自民、公明の3党の実務者は15日、政府提出の社会保障と税の一体改革関連法案を修正し、今国会で成立させることで合意した。修正協議の最終期限としていた同日深夜、社会保障、税制それぞれの協議を担当する3党の実務者が確認書に署名。今後、各党の了承手続きを経て正式合意される。修正協議の中で公明党は、消費税を現行の5%から2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる前提としてきた(1)社会保障の全体像を示す(2)景気回復―などの5条件を盛り込むため、最終局面までギリギリの交渉を続けた。その結果、公明党が閣議決定の取り下げを強く迫った新年金創設と後期高齢者医療制度廃止の法案提出については「事実上の取り下げ」に導いたほか、低所得者対策、子育て支援策も拡充される。
3党合意のポイントについて、修正協議を担当した石井啓一政務調査会長と斉藤鉄夫税制調査会長に聞いた。
社会保障
石井政調会長
―消費増税の前提としてきた5条件は、今回の合意で満たされましたか。
石井啓一政調会長 5条件を極力満たせるよう、真剣に協議を重ねました。100%ではないかもしれませんが、皆さんに納得していただける成果を挙げられたと判断し、合意に至りました。そもそも公明党は自公政権時代、毎年1兆円程度増えていく社会保障費の安定的な財源を確保するため、消費税を含む税制の抜本改革が必要だと判断しました。
―それで2009年の改正所得税法に5条件を盛り込んだのですね。
石井 そうです。その法律の付則104条の中に、消費増税の前提として(1)社会保障の全体像を示す(2)景気回復(3)行政改革の徹底(4)消費税の使途は社会保障に限定(5)税制全体の改革で社会保障財源を捻出―と盛り込みました。これが5条件の“出発点”であり、公明党の基本的な立場です。
―3党協議で公明党は、「社会保障の全体像を示せ」と強く主張してきましたが。
石井 全体像に深く関わっているのが、民主党が掲げている最低保障年金の創設などを柱とする新年金制度案を13年に国会提出し、後期高齢者医療制度廃止法案を今国会に提出するとした閣議決定です。
―その取り下げを強く迫っていましたね。
石井 度重なる協議でも平行線でしたが粘り強く交渉した結果、最終的に3党の確認書の1番目で、今後の公的年金制度と高齢者医療制度の改革は、「あらかじめその内容等について3党間で合意に向けて協議する」ということになりました。
―その意味は。
石井 この「内容等」の中には実施時期も含まれます。すなわち実施時期も3党協議の対象となるので、閣議決定された両法案の実施時期が事実上、取り下げられたということになります。また確認書に沿って言えば、民主党の新年金制度と後期高齢者医療制度の廃止については、内容を変更しなければ3党間協議で合意できないので、民主党マニフェスト(政権公約)の撤回につながります。
―確認書の2番目、低所得高齢者らを対象とした「福祉的な給付」とは。
石井 低所得の高齢者や障がい者への事実上の加算年金を、福祉的な給付で行うことになりました。これは政府が提出した社会保障関連5法案とは別途、法律をつくる必要があります。その法律は消費税率の引き上げまでに成立させるということを確認したので、「社会保障改革を置き去りにした増税先行は許さない」という公明党の主張が反映されています。
―3番目の交付国債について。
石井 この交付国債は、基礎年金2分の1の国庫負担の財源に充てるものですが、財政赤字を小さく見せるための粉飾的予算にほかなりません。それで、今回の協議では、交付国債関連の規定を法案から削除させ、その代わりに政府が必要な措置を講じることも確認しました。
―政府提出の法案について具体的な協議の成果は。
石井 子育て関連3法案の修正については、公明党が提案していた考え方を基にした修正になっています。政府提出の総合こども園法案を撤回し、現行の「認定こども園」を拡充します。また、文部科学省と厚生労働省による二重行政を排し、単一の施設として認可・指導監督を一本化。財政的支援も拡充することにしています。
―子育て分野でほかに合意したことは。
石井 子育て関連で懸念があった市町村の保育の実施義務を外すということについては、引き続き義務を担うようにしました。さらに、公明党が主張した幼稚園教諭の免許と保育士資格の一体化や、人材確保のための処遇改善などについて検討していくことが決まりました。そして2年をめどとして、総合的な子ども・子育て支援を実施するための行政組織の在り方を検討するとしています。
―現行の年金制度を強化する関連法案はどうなりましたか。
石井 公明党が主張してきた受給資格年数の25年から10年への短縮や、厚生年金と共済年金の被用者年金の一元化を決めました。短時間労働者の厚生年金適用拡大も行います。そして産休期間中の社会保険料の免除のほか、遺族基礎年金の父子家庭への給付も実現しました。公明党が10年に発表した「新しい福祉社会ビジョン」などで掲げていた政策の相当部分について、実現の方向で合意したのは大きな成果です。
税制
斉藤税調会長
―公明党は税制でどんな主張を反映させたのですか。
斉藤鉄夫税制調査会長 主に(1)低所得者対策(2)景気対策(3)増税先行の阻止―の三つです。
消費税には低所得者ほど負担感が重い「逆進性」の問題をはらんでいます。そこで、公明党は低所得者対策の拡充を強く訴えてきました。
その結果、当初の政府案にはなかった軽減税率を低所得者対策の選択肢として法案に明記することになりました。消費税率を8%に引き上げる際の低所得者対策の選択肢は「簡素な給付措置」と軽減税率です。税率10%の際は、減税と給付を組み合わせる「給付つき税額控除」と軽減税率が選択肢です。また、簡素な給付措置は公明党の主張を踏まえ、「しっかりとした措置」で立法化を検討していくことになりました。公明党が修正協議に加わったことで低所得者対策を大きく前進させることができました。
―景気対策に関する公明党の主張は。
斉藤 景気対策について政府案では「実質2%、名目3%の経済成長をめざす」と掲げたにもかかわらず、そのための対策はあいまいでした。
公明党は「防災・減災ニューディール」など具体的な景気対策を法案に明記し、それを着実に実行していくよう強く訴えてきました。結果として、防災・減災対策などを軸にした景気対策の検討を盛り込ませることができました。
さらに、公明党の主張を踏まえ、自動車取得税と重量税は「抜本的見直しを行うこと」になりました。「抜本的」という言葉には、公明党が訴えてきた自動車取得税の廃止という意味も含まれています。
―どのように増税先行に歯止めをかけたのですか。
斉藤 今回、政府が法案を出している当面の年金改革と子育て支援を除くほかの社会保障改革を置き去りにしたまま、消費増税だけを求める政府・民主党の増税先行を阻止するため、消費税率引き上げは、具体的な社会保障制度改革を検討していく「社会保障制度改革国民会議」の結論を得ることを条件として法案に盛り込むことになりました。社会保障改革が決まらない限り、消費増税ができない仕組みとしたのです。
【公明新聞より転載】